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東京地方裁判所 昭和52年(ワ)3269号 判決

原告

武石義房

原告

谷畑驍

原告

竹内茂行

右三名訴訟代理人弁護士

徳満春彦

右訴訟復代理人弁護士

山本孝

被告

イースタン労働組合

右代表者執行委員長

中野美好

右訴訟代理人弁護士

石野隆春

須藤正樹

山口英資

主文

一  原告らの本件無効確認の訴を却下する。

二  原告らのその余の請求はいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が昭和五一年一二月一九日原告らに対してなした除名処分は無効であることを確認する。

2  被告は各原告に対し、それぞれ金五〇万円及びこれに対する昭和五一年一二月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決ならびに第2、第3項につき仮執行宣言を求める。

二  被告

(本案前の申立)

1 原告らの、昭和五一年一二月一九日被告が原告らに対してなした除名処分の無効確認を求める部分の訴を却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

(本案の答弁)

1 原告らの請求はいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告はイースタン・モータース株式会社の従業員であるハイヤー・タクシーの運転手らで結成している労働組合(以下「被告組合」ともいう)であり、原告らは、いずれも被告組合羽田営業所支部所属の元組合員である。

2  原告らは、被告組合の運営方法が非民主的であるため、かねてよりその改善方を要求してきたが、被告組合が一向に改善しないため、それぞれ昭和五一年一二月九日被告組合に脱退届を提出し、脱退した。

3  これに対し、被告組合は、昭和五一年一二月一九日開催した代議員大会において、原告らが組合規約四二条三項の「組合の統制を著しく乱す行為のあった者」及び同条五項の「その他組合員として不当な行為をなした者」に該当するとして、原告らを除名処分する旨の決議をなし、原告らを除名した(以下「本件除名処分」という)。

4  原告らは被告の組合運営の非民主性を批判して平穏に脱退したにすぎなく、被告の組織混乱を企図したり、組織破壊の行為をしていないにも拘らず、被告組合の執行委員長、副執行委員長及び書記長らの役員は、右代議員大会に先立ち、原告らが「これまで組織混乱を目的とした」行動をしたと公然と非難、中傷し、その旨代議員大会に報告し、除名処分案を提案、可決させたほか、代議員大会の報告として被告組合羽田営業所支部掲示板に、除名処分は「組織防衛上行った処置」である旨の張り紙をなし、あたかも原告らが反労働組合的な組織破壊分子である旨公然と非難中傷した。

5(一)  本件除名処分は、被告組合を脱退し、既に組合員資格を失った原告らに対してなされたものであるから無効である。

(二)  仮に右の点を措くとしても、原告らの言動は前記組合規約四二条に何ら該当するものではなく、従って、本件除名処分は無効である。

6  被告はあえて無効な本件除名処分を行ったばかりでなく、原告らが組合員として誠実に行ってきた言動と、当然の権利自由である組合脱退自体を、あたかも除名に値する重大な反労働者的、反組合的行動であると描き出し、原告らを前記4のとおり公然と非難中傷し、原告らの名誉を著しく侵害した。このため原告らは甚大な精神的苦痛を受けたが、その損害は金銭に見積ると各自金五〇万円を下らない。

7  よって、原告らは本件除名処分の無効確認を求めるとともに、無効な本件除名処分によって原告らの名誉を侵害した不法行為による損害賠償として、被告に対し慰藉料として各自金五〇万円及びこれに対する本件除名処分の日の翌日である昭和五一年一二月二〇日から完済に至るまで、民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  被告の答弁

1  本案前の主張

確認の訴えは、権利又は法律関係の現在における存否の主張であることを要するところ、本件除名処分の無効確認の訴えの部分は、過去の法律関係の確認を求めるものであり、かつ、原告らが現在組合員たる地位の確認を求めているのではないことは明白であるので、右訴えは不適法として却下されるべきである。

2  請求原因に対する認否及び被告の主張

(認否)

(一) 請求原因1は認める。

(二) 同2のうち、原告らが昭和五一年一二月九日組合脱退届を被告組合に提出した事実は認め、その余の事実は否認する。

(三) 同3は認める。

(四) 同4は否認する。

(五) 同5の(一)(二)は争う。

(六) 同6は否認する。

(七) 同7は争う。

(被告の主張)

(一) 原告らが被告に対し、名誉侵害の不法行為による損害賠償を求めるとして主張するところは、要するに、本件除名処分の無効の主張を不法行為の要件に組みかえただけであり、本来組合運動固有の問題を法廷に持ち出したものであり、裁判所の法的審査に適さないものである。

すなわち、原告らは、本件不法行為は被告が原告らに対し〈1〉原告らが組織混乱を目的とした行動をした。〈2〉そのことを理由に除名処分をした。〈3〉除名処分は組織防衛上の処置であり、原告らは反労働組合的な組織破壊分子である旨、公然非難・中傷したことにあると主張しているが、右〈1〉ないし〈3〉の主張事実は、「労報」の記事(〈証拠略〉)、「緊急事項」の掲示(〈証拠略〉)、「臨時代議員大会議案書」の提案理由の記載(〈証拠略〉)、「提案理由」の掲示(〈証拠略〉)、「報告事項」の掲示(〈証拠略〉)の事実を指すものであるところ、これらの文書や掲示は、いずれも除名手続の過程で不可欠の必要上作成された組合内宣伝、連絡物であるのみならず、その内容の点でも、殊更に原告らの名誉を侵害することを意図していることは全く窺われないし、その発表方法の点でも、組合員配布用文書を組合員の車の中に入れたり、運転手控室や運転手食堂に置いたりしたこと、ならびに掲示物を運転手の控室に掲示したことにつきるのであり、何ら原告らの名誉を侵害する特別の目的を有するものではないことは明白である。このような固有の意味での組合活動が裁判所の法的審理に適さず、本来、組合自治に委せられるべきことであることは明らかである。

(二) 被告組合が原告らに対してなした本件除名処分は全く正当なものであり、何ら違法に原告らの名誉を侵害する行為と言われるべき筋合のものではない。

(1) 被告組合の組織統一に至る経過

〈一〉 被告組合は、イースタンモータース株式会社(以下「モータース」という)とイースタンエアポートモータース株式会社(以下「エアポート」という)に勤務するハイヤー乗務員、タクシー乗務員、技工職員、用務職員で構成され、全国自動車交通労働組合東京地方連合会(以下「全自交東京地連」という)に加盟する労働組合である。現在組合員数は約五七〇名であり、イースタンのハイヤー営業所である日比谷、神田橋、白金、調布、新宿、世田谷、喜多見(後二か所はタクシーも含む)及びエアポートの営業所である羽田空港(ハイヤー)、蒲田(タクシー)に勤務する乗務員をそれぞれ結集した九か所の乗務員支部と各営業所に勤務する整備職員が結集した一つの整備支部とをあわせて合計一〇支部を擁し、各支部の組織率は一部を除きほぼ一〇〇パーセントである。

右モータースとエアポートとは社長を同じくし、前者が後者の株式の過半数を有し、後者の役員、役職員の過半数は前者の出身者で占めるという典型的な親子会社である。なお、エアポートは、昭和四八年一二月イースタンの羽田空港案内所(主に全日空パイロットを送迎するハイヤー営業)と昭和四六年六月にイースタンにより買収されたイースタン羽田交通株式会社(主にスチュワーデスを送迎する無線タクシー営業)とが一体化した会社であり、羽田空港と蒲田とに営業所を有している。

〈二〉 被告組合が右のような大きな組織力を有するに至るまでには、結成以来約二〇年にわたる団結力強化のたたかいの長い過程があった。すなわち、被告組合の前身であるイースタン労働組合(以下「単組」ともいう)は、昭和二三年イースタンに勤務するハイヤー乗務員を中心に結成され、その後、同企業内の観光バス乗務員、ガイド、自動車整備工場技工職が団結に参加し、企業拡張とともに昭和四〇年には約五五〇名の組合員を擁するまでに成長した。ところが、昭和三九年及び同四一年と続いた会社の組合に対する組織弱体化・分断攻撃のなかで醸成された組合の不団結は、昭和四二年にはハイヤー・タクシー支部にも及び、喜多見支部やタクシー支部で分裂が起り、組合員は三〇〇名以下に減少した。しかし、単組は、昭和四三年秋以降内部の団結を固め、昭和四六年には組合員数二四〇名、ハイヤー乗務員と技工職員だけの組織にはなったものの、逆に組織体制は一本化し、労働条件改善と組織強化の運動は強力に進められるようになり、昭和四七年には、分裂した喜多見労組、昭和四二年に開設された羽田空港案内所に生まれた親睦会「羽田会」及び昭和四六年買収したイースタン羽田交通株式会社のなかの乗務員組合などの企業内別組織と組織統一を展望しつつ交流を持ちはじめ、翌四八年には右別組織の協議会であるイースタン連合協議会と共同で春闘合宿を持ち、組織統一問題についても話し合いを行い、同年一二月には初の合同三役会議を開くに至った。右連合協議会は昭和四九年に連合労働組合となり、空港、蒲田、喜多見の三支部を擁することになり、単組との間で合同執行委員会、三役会をもち、双方の春闘団交に各三役がオブザーバーとして、参加するなど更に交流は深まった。昭和五〇年になると統一は時期の問題となり、同年一月の大会決議により、連合労組喜多見支部は同年二月一日付でイースタン労組喜多見支部として発足し、エアポート乗務員で構成される他の連台労組支部より一足先に統一した。さらに、昭和五〇年には春闘の合同団交や秋闘統一要求書の提出、統一団交などの共闘が更にすすみ、連合労組の秋の定期大会において「七六春闘前を目標に組織統一を進める」という方針が決定され、統一への気運は一段と強まり、翌五一年単組拡大執行委員会や、春闘幹部合宿討論集会に連合労組の役員が参加したり、空港支部明番集会で単組三役が統一に対する質疑応答に答えたりするなどの努力を積み重ねたうえ、同年三月二一日遂に組織統一が成り、連合労組各支部は、イースタン労組空港支部及び同蒲田支部として発足することになった。

〈三〉 イースタン労組では昭和五〇年秋、従来からの同資本内組織統一という大会方針を定期大会で確認し、連合労組でも「七六春闘前を目標に組織統一を進める」という方針が同年秋の定期大会において決定されたことは前記のとおりである。連合労組では昭和五一年二月一〇日の執行委員会の決定に基づき、空港支部では二月二三日、二四日の統一についての大会に代る明番集会において、また、蒲田支部では二月二五日の同議題の大会において、それぞれ組織統一の賛否について討論・投票を行った。右投票用紙は、二月二五日一か所に集められて開票され、結果は組合員数一四五名中投票総数一二二名、賛成七三名、反対四四名、白紙四名、棄権一名、委任その他二三名ということで統一は決定された。続いて、二月二八日の両労組合同三役会議において、統一に対する具体的な取決め案が作成され、それぞれの執行委員会に右案が持ち帰られ、承認されたうえ、イースタン労組では三月七日、七六春闘臨時大会において統一案を承認決定し、さらに三月一五日両労組の合同執行委員会で意思統一をして万全を期し、そして、三月二一日に統一したものである。

なお、統一の具体的な内容は次のとおりである(九月一五日の定期大会までの暫定扱いを含む)。

〈1〉 イースタン労組加入と同時に連合労組を発展的に解消する。

〈2〉 昭和五一年三月二一日から加入とする。

〈3〉 全自交東京地連関係は昭和五一年四月一日統一とし、新支部の地連登録数を二五〇名とする。

〈4〉 新支部の組合員の組合費は、定期大会まで現行のままとする。

〈5〉 新支部の役員構成は、定期大会まで両支部あわせて本部二名、支部四名の合計六名の執行委員とする。

〈6〉 新支部名は、P1は空港支部、P2は蒲田支部とする。

〈7〉 新支部組合員の労金積立、役員手当、行動費等については、イースタン労組規約に基いて扱う。

〈8〉 三月七日のイースタン労組臨時大会で、前記六名の執行委員と、新支部組合員の紹介をする。

〈9〉 三月二一日までに合同執行委員会を開き、そのなかで具体的決定を行う。

(2) 本件除名処分の対象となる原告らの行為

原告らの以下の行為は、「組織混乱を図る行為」、「組合の運営の誹謗宣伝」、「組織に多大の損害を与える行為」であり、組合規約四二条三項及び五項により除名処分の対象となり得べき行為である。

〈一〉 前述のとおりのイースタン労組と連合労組の組織統一は、昭和五〇年秋の連合労組定期大会による「七六春闘前の組織統一」の目標の方針決定以後、連合労組内での地道な統一のための準備行為―〈1〉統一の意義の教宣活動、〈2〉共済制度や組合資産、組合費や加入方法など手続的調整活動、〈3〉イースタン労組に対する疑問や不信の解消活動など―を経て達成されたが、この間、原告武石義房(以下「原告武石」という)は、連合労組羽田支部の組合員として、大会決定に反し、組織統一に反対の立場から、右準備行為に対して種々の妨害行為を繰りかえした。すなわち、原告武石は、当時、連合労組内にあった一般組合員の統一に対する不安を利用したりしながら、イースタン労組を中傷誹謗し、「御用組合である」、「書記長は運転手経験のない男だから、運転手の気持など理解できない」、「空港ハイヤーの権利が失なわれる」、「賃金体系も一つにされてしまう」、「給料の銀行振込み制を強制される」などと根拠のない統一反対攻撃を執拗に行った。

また、統一は組織加入の方式を採用するが、組合員各人の自覚を高めるため、各人に加入書を書いてもらうという連合労組執行委員会の決定に対しても、原告武石は、記入拒否を広言・実行したりして統一への組織的努力を妨害した。

さらに、昭和五〇年九月の大会に代わる明番集会において、統一準備のため、給料に対する一定割合の組合費を徴収しているイースタン労組にあわせて、連合労組でも従来の一定額方式から給料スライド方式の組合費徴収に改める決議をした際、原告武石は、事前に右集会決議事項を知ったうえで、委任状を提出して欠席しておきながら、後に右決議事項は直接無記名投票で決定しなければならない事項であるのに挙手により決定したから無効であると主張して、もっぱら妨害を目的とした宣伝を行った。しかし、次の大会に代る明番集会において、右決議の瑕疵の問題の処理を討議採決したところ、原告武石以外は全員決議の有効性を承認したので、同人の妨害意図が逆に暴露される結果にしかならなかった。

〈二〉 昭和五一年三月二一日の統一の際に決定された統一内容のうち暫定扱いをした部分は、同年九月一五日の定期大会においてイースタン労組の規約どおりに改められる予定であったが、P1(空港支部)、P2(蒲田支部)の役員構成については、未だ支部の本部への結集体制が固まっていない段階であるので、「本部副委員長定員現行一名を三名に改定し、うち二名はP1(空港支部)、P2(蒲田支部)各支部の推薦による両支部出身立候補者をたて、他支部は対立候補をたてない方向でゆく、但し、個人的立候補者は妨げない。」という暫定扱いを執行委員会で討議決定した。そこで、空港支部では、右決定に基づき、二日間の明番集会で討議の結果、役員選考委員会を含め、支部役員会に一任することが決定され、同年八月一七日の支部役員会を役員選考委員会と改めて討議した結果、坂本現副委員長が選考委員会推薦の候補者と決定され、右決定は選考委員会決定の公示という形で支部内に掲示・発表された。ところが原告武石は、右選考委員会の決定後、本部副執行委員長選挙立候補を表明、届出をし、前記掲示を選挙妨害文書であるとして攻撃し、これを取りはずさせたうえ、「公平な選挙が行われていない」という理由で支部大会(同年九月一日及び二日)前に、突然立候補辞退届を提出した。被告は、原告武石に、同人の選挙批難が根拠のあるものかどうかを直接問い質したところ、同人は「南部労政事務所の職員が公正な選挙でないと言った」などと、その職員の氏名も明らかにできずに新たな誹謗を持ち出す以外論拠を説明できず、一連の行為がもっぱら組織混乱を図るためだけのものであることを明らかにする結果となった。

また、原告武石は、右支部大会においても、副執行委員長三名の暫定扱いを「規約違反だ」として宣伝したり、たびたび大会混乱を目的とした発言をするなど、もっぱら団結を妨害するための活動を執拗に繰りかえした。

〈三〉 原告らは、昭和五一年九月二一日、空港支部において、原告らを含む七名の組合員と謀って、新組合結成=組合分裂を企図した行動を起こし、組織破壊活動を一か月以上継続させ、組合に多大の損害を与えた。

被告は、本部、支部役員を中心に団結を守るため、原告ら七名の組合員に対し、再三の説得活動をねばり強く行い、支部においても、二日間の明番集会を開いて討議し、また、原告らが組合内で「脱退しても同じ権利が与えられる」、「年間組合費を計算すると数万円の得になる」、「動員などに行動しなくてもすむ」などと言って脱退勧誘を行っている実情が報告された。被告としては、支部に二つの組織が並立して対立し合うことが結局は組合員の利益にならないことを考慮し、〈1〉相手の言い分を聞く、〈2〉団結の重要さを説明するなどの方針で辛抱強く原告らを説得し、遂に同年一〇月二二日、原告らを含む七名の分派を解散して組合に復帰することが右七名全員と被告との間で合意決定され、その旨の文書が双方確認し合って作成され、そして、組合内に掲示され、ここに分裂問題は一応円満に終了した。

〈四〉 しかるに、原告ら三名は、昭和五一年秋闘において、スト権投票用紙の文言を揚げ足とり的に非難し、それを口実に再び前記〈三〉の分裂活動を再開させるべく脱退届を提出した。すなわち、昭和五一年秋闘において、原告谷畑驍(以下「原告谷畑」という)は、昭和五一年一二月三日夜の職場集会で、被告のストライキ権の投票の投票用紙の文言に妥結権という記載が明確になされていないことを口実として秋闘妥結を批難し、これをきっかけとして原告ら三名は、そのための職場集会への参加を拒否し、組合の妥結決定に反対の宣伝を公然化させ、そして、右組織混乱の意図が他組合員に受け容れられないことを知るや、同年一二月九日「おれ達は前回の時から納得していないのだ。今回の行動も前回の行動の延長だ。」などと広言したうえ、脱退届を被告宛提出してきた。被告は、右事態に直面し、支部役員を通じて原告らに脱退届の真意を確かめたところ、原告らはいずれも右広言と同趣旨の回答をし、「もう組合の話には応ずる気はない。」とそれ以上の討論・説得を拒否した。

(3) 本件除名処分に至る経緯

被告は、昭和五一年一二月一〇日の緊急執行委員会において、前記(2)の〈一〉ないし〈四〉の原告らの行為を諸々の角度から評価した結果、原告らは、〈1〉組合の決定に反し組織の混乱を図った。〈2〉民主的運営をしているにも拘らず、口実を設けては組合の運営が非民主的だと誹謗宣伝した。〈3〉秋闘の期間中、組合執行部を組織問題で振りまわし、組合に多大の迷惑を与えた、等の組合員としてあるまじき行為を行ない、そして、原告らのこれらの行為は組合規約四二条三項及び五項に該当し、団結を固め組合員の利益を守るという立場からは、原告らが組合員としての意識を喪失している以上、組織防衛上の処置として原告らを除名せざるを得ないと判断した。そこで、同年一二月一〇日の執行委員会で全員一致で除名の大会提案が決定され、以降、各支部で明番集会が実施され、代議員が選出されたうえ、同月一九日臨時代議員大会が開かれ、代議員一〇〇名中九八名の参加を得て、経過報告や討論の後に、全員一致で原告ら三名の除名処分が決定されたものである。

なお、被告組合においては、従来から組合加入の場合(規約四条)に準じて、組合脱退は執行委員会の承認事項となっていた。原告らが一二月九日脱退届を提出した後、緊急に開かれた執行委員会では、原告らの脱退の件が付議されたが、その結果承認されることなく原告らの除名処分が大会に提案され、提案どおり決定されたものであり、本件除名処分は、手続的に有効なものであることは論をまたない。

三  被告の主張に対する原告の反論

1  いわゆる「組織統一」について

(一) 原告らが被告組合を脱退した背景には、昭和五一年三月になされた連合労組空港支部と被告組合との、いわゆる「組織統一」が、十分な討議と空港支部員の十分な納得が得られないままに強行されたことにある。

連合労組と被告組合との統一問題は、昭和五〇年以降、春闘を共にたたかうなかで次第に具体的課題として日程にのぼった。しかし、右統一気運は、主として組合役員の働きかけによる上からのものであり、組合員に対する教宣活動も極めて不十分であった。特に、統一の条件や統一のすすめ方については、組合員の民主的討議が十分なされないまま強行されるというせっかちさが随所に見られた。すなわち、昭和五一年二月、連合労組の明番集会において統一案が議題にあがったが、前述のとおり、それまで十分に組合員の意見を汲みあげ討議を組織することがなかったために、統一の意義、統一の条件、統一のすすめ方等について疑問点が少なからずあり、可決に熟していない状況であった。しかし執行委員長は「もし、統一案が本集会で可決されないことになるなら、これまで統一をすすめてきた執行部に対する不信任とみなして辞職する」との脅迫的発言があり、かろうじて承認されるという始末であった。右のように、何が何でも統一させるということで具体的な統一の条件や、すすめ方が曖昧のまま承認されたこともあって、その後、統一の条件や統一のすすめ方について問題点を指摘する原告らを含む多数の組合員と、意見の相違が惹起されることとなった。被告は、原告らが組織統一について明番集会等で発言した個々の内容を故意に歪曲し、被告組合を「中傷誹謗した」、「統一反対攻撃を執拗に行った」と、それこそ原告らを中傷誹謗する。しかし、統一に際し、原告らがそのメリット、デメリットを比較検討し、相手方組合について質問することは当然のことである。本来、「組織統一」の方針を確定する以前に、統一すればどこがどうなるのか、とか統一の条件や統一のすすめ方等について十分検討されなければならないのであるが、それがなされないまま「組織統一」が決定されたこと自体が問題であって、「組織統一」の方針決定後の故をもって、右の論議を短絡的に統一反対攻撃とすることは不当である。原告らが、「賃金体系はどうなるのか」、「賃金体系が一つにされると労働条件は低下しないだろうか」、「被告組合員に対しては、給料の銀行振込制がなされていると聞くが、これはどうなるのか」、「書記長は運転手の経験がないと聞くが、われわれ空港支部運転手の気持を本当にわかってくれるだろうか」等々の疑問点を明番集会で質すことは当然であり、もしこのことが組織統一反対攻撃とされるなら、民主的組合活動は到底望むべくもないこととなる。

(二) 被告も自認するように、「組織統一を進める」というのが方針であった。すなわち、組織統一という以上、両組合は対等、平等の立場での真の統一、換言すれば、「新設合併」的統一、対等、平等の合体が本来なされるべきであった。現に連合労組執行部も被告組合執行部も、連合労組組合員に対し右のように説明をしていたのである。それにも拘らず、被告のいう「組織統一」は連合労組の「吸収合併」ですらなく、連合労組の解散と、連合労組員の被告組合への加入という形でなされてしまった。右のような違約的な統一工作のすすめ方に対し、原告谷畑、同武石は、統一にあたっての執行部の説明に従い、被告組合に「加入申込書」を提出しなかったものである。

(三) また、「組織統一」は組合の基本にかかる重大事項であるから、万難を排して正規の大会を開催し、民主的討議を十分になし、個々の組合員が統一の意義、統一の条件、統一のすすめ方について納得のできるようにとりはかるべきであるにも拘らず、執行部は安易に「明番集会」をもってこれに代えた。

(四) 組織統一問題の決議については、空港支部においては昭和五一年二月二三日及び二四日の両日、大会に代る両明番集会において投票が行われ、蒲田支部においては翌二月二五日、同支部臨時大会において投票がなされた。右投票はそれぞれの支部大会で行われたのであるから、各支部単位で開票すべきところ、執行部は投票用紙を一か所に集め開票した。その結果は、総投票数一二二票中では約六〇パーセント、組合員数一四五名中ではわずか五〇パーセントの七三票しか賛成が得られなかった。もし、支部単位で開票したとすれば、空港支部では反対多数であったと思われ、現に反対多数との有力な噂があった。すなわち、空港支部では労働者の支持を実質上得られていなかったのである。組織統一のための決議が連合労組の各支部でなされなければならない所以は、右連合労組は、連合団体にすぎず、「空港支部」と「蒲田支部」が単位組合であるからである。現に、「組織統一」以前の昭和五〇年二月、連合労組喜多見支部が被告組合と「組織統一」をした際は、連合労組の大会決議ではなく、単位組合たる「喜多見支部」の決議のみで統一を決定しているのである。従って、組織統一の投票は、「空港支部」、「蒲田支部」各別毎に開票すべきであった。そして、開票、従って、決議の確認は、各支部毎になされていないのであるから、単位組合たる「空港支部」「蒲田支部」の組織統一についての決議は不存在というべきである。

組織統一すなわち労働組合の合同については、各組合において解散決議についてと同じ要件に従って合同の決議をなすことを要するものと解すべきである。まして、本件「組織統一」は、新たな加入手続を踏んだのであるから、(このことは連合労組の解散を前提とする)、解散決議の要件に従ってなされるべきであったこととなる。ところで、労働組合法一〇条によると、労働組合の解散は組合員の四分の三以上の多数による総会の決議によることを要し、右規定は組合規約をもって変更しえないのである。従って、仮に連合労組自体の決議で足るとしても、前述のとおり賛成票は六〇パーセントで四分の三以下であったから、いずれにしても「組織統一」決議自体が無効であり、右決議の有効を前提としたうえ、原告らの行動の責任を問うことは法的にできないものというべきである。

2  組合費徴収規定の改訂について

被告は、原告武石の組合費徴収規定改定についての発言をとらえ、これを「もっぱら妨害を目的とした宣伝」であると主張する。しかし、組合費徴収は、連合労組規約三六条で「組合費は一か月一〇〇〇円とする。」と定められているので、規約の改定問題であり、規約の改正については、同規約二三条四号で「全組合員の直接無記名投票で決めなければならない」とされている。そこで、原告武石が挙手による採決は無効ではないか、と当然の指摘をしたものであり、原告武石が仮に右決議の際欠席したとしても、右指摘をとやかくいわれることは全くない。労働組合の運営は規約に従ってなされるべきであり、ルーズなやり方はよくない、と批判したことを目して、「もっぱら妨害を目的とした宣伝を行った」ときめつける執行部の体質こそ、原告らをして脱退を決意させたものなのである。

3  本部副執行委員長選挙の件について「組織統一」にあたり、本部副執行委員長定員を三名に増員し、増員分の二名を「空港支部」と「蒲田支部」の出身者をもってあてるという措置は、それ自体適切なものであり、これに対し原告武石が異論を述べたわけではない。しかし、被告組合規約二七条は、副執行委員長の定数は一名となっており、右規約は組織統一にあたり当然改定されるべきであり、また、規約を尊重して組合運営にあたる姿勢があれば十分改定できたはずである。原告武石は、右の当然の事理を指摘したまでであって、「規約違反」の宣伝や、「もっぱら団結を妨害するため」ではない。

当時「空港支部」出身の本部副執行委員長の選出について、本部選挙管理委員会は、立候補期間を八月一五日から一八日までと決定し、その旨公示した(但し、空港支部では立候補届を八月一七日までに提出するよう要望されていた)。そして、空港支部では、もし八月一七日までに立候補者がない場合は、役員選考委員会を開き、候補者を推薦することが明番集会で決っていた。そこで原告武石は、八月一七日午後四時頃、立候補届を提出したところ、その提出前にすでに役員選考委員会は、未だ立候補期限が来ないにも拘らず、坂本現副執行委員長の推薦決定をしてしまった。原告武石は、右事実を全く知らずに立候補届を提出したものである。さらに選考委員会は、原告武石と右坂本の両立候補の公示のほか、特に坂本候補については、選考委員会の推薦決定をした旨を公示した。そこで原告武石は、右は明番集会の確認に反するばかりか、不平等、不公平な扱いであり、不当ではないか、と藤永組織委員に質したところ、同委員は「自分もおかしいと思う」と言って右推薦公示を撤去した。ところが、選考委員会は再度右推薦公示を掲示するに至ったので、原告武石は、このような事態のもとでは到底平等、公正な選挙はなされないものと考え、また、自分の見解に誤りがあってはいけないと思い、川崎労政事務所を訪問し、長田誠、平田全男職員に面会し、その見解を質したところ、同様の意見であったので、立候補を辞退したものである。

右一連の原告武石の行為を目して、「もっぱら組織混乱を図るためだけのものである」とか「もっぱら団結を妨害するための活動を執拗に繰りかえした」ものということはできない。

4  原告らを含む七名の脱退について

(一) 「組織統一」以来の、以上のような事態の推移の中で、原告らは、被告組合の運営改善に希望を失い、脱退したいという気持が次第に強固になっていった。しかし、七名の脱退者は、それぞれ脱退の動機を一様にするものではなく、組織分裂を企図したものではない。

被告は原告らの個々の発言を云々しているが、これは脱退に関心を持つ者が「脱退すれば会社から差別的扱いを受けないか」等の質問に対し、「そんなことは出来ないはずだ」、「労働者としての権利が差別されていいはずがない」等の発言をしたことや、脱退した事態での客観的状況を述べたにすぎない。なお、原告ら三名は「年間組合費がもうかる」とか、「動員などに行動しなくてもすむ」等発言し、脱退を勧誘したことはない。

昭和五一年九月、原告ら三名のほか、伊藤信明、本儀優、鈴木稔、木村敏夫の合計七名が被告組合を脱退すると、会社職制の配車係から脱退者に対する差別的発言があり、これに対し脱退者らは、エアポート沖津亀雄専務取締役に抗議をするとともに、自らの権利擁護のため、七名で労働組合を作ることとし、一〇月一五日組合を結成して、その旨右沖津専務取締役に通告した。

同年一〇月二二日午前一〇時より約一二時間にわたり、原告ら脱退者と本部役員間で話合いがなされた。その際、本部役員は、それまでの組合運営が規約を厳守せず、民主的になされなかった点を改めるとの発言があり、原告らもこれを了承して脱退を撤回した。

(二) しかるに、被告組合の執行部の右約束は、全く口先だけのことであり、一向に改善されなかった。例えば、昭和五一年秋闘に際し、二つの明番集会でスト権投票がなされたのであるが、原告武石が出席した明番集会では、スト権投票には妥結権が含まれていないとして投票がなされ、原告谷畑が出席した明番集会では、被告組合でのスト権投票には慣行上妥結権が含まれているとして投票がなされた。そこで、支部執行部は、妥結に際し、再度妥結権確立の投票をしなければならなかった。右の一連の事態の中で、執行部がその場しのぎのいい加減な発言と、組合運営をなし、批判を受けると強弁して誤りを認めない体質がまたしても露呈された。そこで、原告らは、一旦は執行部が運営改善に努力するとの発言を信じて組合復帰をしたが、改善の意思も誠意もないものと考え、昭和五一年一二月九日秋闘終結後、再度の脱退届を提出したのである。

第三証拠(略)

理由

第一本件確認の訴の適否について

原告らが被告組合羽田営業所支部所属の元組合員であったこと、原告らがその主張の日時に被告組合から本件除名処分を受けたことは当事者間に争いがない。

ところで、確認の訴は、現在の権利又は法律関係の存否を対象として許されるものであるところ、本件訴のうち、被告が原告らに対してなした除名が無効であることの確認を求める部分は、原告らに対し昭和五一年一二月一九日になされた本件除名処分という過去の法律行為の無効確認を求めるものであり、かつ、原告らが現在における被告の組合員としての地位の確認を求めているのではないことは原告らの主張自体に徴して明らかである。そうすると、現在の権利又は法律関係の存否の確認を求めるものでない原告らの本件確認の訴は、いずれも不適法として却下を免れない。

第二原告らの慰藉料請求の当否についての判断

一  被告はイースタン・モータース株式会社の従業員であるハイヤー・タクシーの運転手らで結成している労働組合であり、原告らはいずれも被告組合羽田営業所支部所属の元組合員であったこと、原告ら主張のとおり被告は原告らに対し、昭和五一年一二月一九日、原告らが組合規約四二条三項の「組合の統制を著しく乱す行為のあった者」及び同条五項の「その他組合員として不当な行為をなした者」に該当するとして、本件除名処分を行なったことは当事者間に争いがない。

二  被告は、原告らの本請求は本件除名処分の無効の主張を不法行為の要件に組みかえたにすぎなく、本来、組合運動固有の問題であるから、裁判所の法的審査に適さないものである旨主張する。たしかに、本請求は、自治団体である労働組合がその内部規律ないし秩序の維持のためになした制裁の効力が争点となっているものであるが、右のような団体である組合の内部規律ないし秩序に関する事柄についての紛争といえども、それが同時に一般法秩序に関係する限りでは、裁判所の審判の対象となるものというべく、本件の如く、不法行為に基づく損害賠償請求の原因として問題とされている以上、裁判所は、被告組合が原告らに対してなした制裁の効力についても、不法行為の成否の見地から審判すべきは当然である。ところで、労働組合にとって団結はその存立に不可欠なものであり、組合が常に強固な団結を維持するためには、組合員が組合の規約・慣行・機関決定等により確立された内部規律ないし秩序に従い統一的な行動をとることがなによりも必要とされる。労働組合の統制権は、労働組合にとって不可欠な団結の維持、確保すなわち労働組合の内部規律ないし秩序維持のために認められるものである。そして、組合が行う除名等の統制権の行使は、本来、自治団体である組合の内部規律に関する事項であり、組合が自主的に決定すべき問題であるけれども、右統制権行使の適否すなわち、制裁事由の有無等についても、争いのあるかぎり、当然裁判所の判断に服するものと解すべく、ただ、右の判断にあたって裁判所は、制裁事由があるとした組合の判断が社会通念に照らし著しく合理性妥当性を欠く場合を除いては、原則として組合の判断を尊重すべきものであると解するのが相当である。

三  そこで本件除名処分の違法性の点について判断する。

1  本件除名処分が被告の組合規約四二条三項及び五項に基づいてなされたものであることは前記認定のとおりであり、(証拠略)によれば、被告組合の規約四二条には懲戒事由として、同条三項に「組合の統制を著しく乱す行為のあった者」、同条五項に「その他組合員として不当な行為をなした者」と規定されていること、同四三条には、懲戒の種類として、「戒告」「権利停止」及び「除名」が規定されていることが認められる。

2  そこで、原告らについて右規約四二条三項、五項所定の制裁事由があったかどうかを検討する。

(一) 被告組合の組織統一に至る経過

(証拠略)を総合すると、被告の主張(二)(1)の〈一〉ないし〈三〉の事実(被告組合の組織構成・組織統一に至る経過及び統一の具体的内容等)を認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。

(二) 組織統一に対する妨害行為

(1) 原告武石、同谷畑が、連合労組空港支部の明番集会等において、賃金体系、給料の銀行振込み制度等について、おおむね被告の主張(二)(2)〈一〉のような趣旨の発言をしたことは、(人証略)により認めることができる。

(2) 原告武石、同谷畑がいずれも被告組合に「加入申込書」を提出しなかったことは原告らにおいて認めて争わないところである。原告らは、「加入申込書」提出拒否の理由について当時被告組合及び連合労組の両執行部から、組織統一の方式は、新設ないし対等合併的統一である旨の説明を受けていたところ、現実には連合労組の解散と同労組員の被告組合への加入という形で違約的な統一がなされたためであると主張するけれども、(人証略)によれば、連合労組執行委員会では、統一は組織加入の方式を採用すること、しかし、組合員各自の自覚を高めるため各人に加入書を書いて貰う旨を決定し、その旨明番集会において連合労組員に説明していたことが認められ、右認定に反する原告谷畑本人の供述は措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(3) 昭和五〇年九月の連合労組の大会に代わる明番集会において、組合費を従来の定額方式から給料スライド方式に改訂する旨の決議が挙手によりなされたこと、その後、原告武石は、右決議事項は直接無記名投票で決定しなければならない事項であるのに、挙手により決定されたものであるから無効であると主張していたことは当事者間に争いがない。ところで、(証拠略)によれば、連合労組の規約三六条には「組合費は一か月一〇〇〇円とする」と規定され、二三条四号では「規約の改正」は「全組合員の直接無記名投票で決めなければならない」と規定されていることが認められるが、(人証略)によれば、連合労組は、次の大会に代る明番集会において、右決議の瑕疵の問題の処理(改めて、直接無記名投票により採決するかどうか)について討議し採決したところ、原告武石のほかは出席者全員が前記決議の有効性を承認したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

(4) 昭和五一年三月二一日の統一の際、九月一五日の定期大会までの暫定扱いとして「新支部の役員構成は、定期大会まで両支部あわせて本部二名、支部四名の合計六名の執行委員とする。」旨決定されたことは、さきに認定したところであるが、(人証略)を総合すると、被告組合では、右暫定扱いをした部分を同年九月一五日の定期大会において被告組合の規約(二七条二号は、副執行委員長の定員を一名と規定している)どおりに改める予定であったところ、未だ支部の本部への結集体制が固まっていない段階であったため、P1(空港支部)及びP2(蒲田支部)の役員構成については「本部副執行委員長定員現行一名を三名に改定し、うち二名はP1(空港支部)、P2(蒲田支部)各支部の推薦による両支部出身立候補者をたて、他支部は対立候補をたてない方向でいく。但し、個人的立候補者は妨げない。」という暫定扱いを執行委員会において決定したこと、そこでP1(空港支部)では右決定に基づき、二日間の明番集会で討議した結果、役員選考委員会をも含めて支部役員会に一任する旨を決定したこと、本部選挙管理委員会はP1(空港支部)出身の本部副執行委員長の立候補期間を同年八月一五日から同月一八日までと決定し、その旨公示したが、P1(空港支部)では、右立候補届の提出期限を八月一七日までと公示していたこと、支部役員会は八月一七日、自らを役員選考委員会と改め、午前一一時頃から選考を開始し、討議の結果、坂本守を役員選考委員会推薦の候補者として決定したこと、ところが、その後同日午後四時頃、原告武石が本部副執行委員長選挙の立候補届を提出したこと、役員選考委員会は右坂本及び原告武石の両候補を公示という形で支部内に提示・発表したが、坂本候補については特に、役員選考委員会が推薦決定をした旨を公示したこと、原告武石は、前記推薦決定の公示を、公正な選挙を妨げる文書であるとしてこれを撤去させ、そして、役員選考委員会が再度右推薦決定の公示を掲示するに至るや、平等、公正な選挙が行われていないことを理由として、同年九月一日及び二日の支部大会前に、突然、立候補辞退届を提出したこと、以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

なお、原告らは、空港支部では、もし八月一七日までに立候補者がない場合は役員選考委員会を開き、候補者を推薦することが明番集会で決っていた旨主張し、右主張事実を前提として、立候補期間中であるにも拘らず、役員選考委員会が坂本の推薦決定をした点を批難するけれども、右前提となる主張事実については、これに符合する原告武石本人の供述はたやすく措信できず、他にこれを認めるに足る証拠はない。従って、原告らの前記批難は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

また、原告らは、役員選考委員会が、坂本について推薦決定の公示をしたことが、公正な選挙を妨げるものであると主張するが、支部役員会が推薦候補者の選定につき明番集会から一任されていたことは、既に認定したところであり、支部役員会(役員選考委員会)が選定(推薦決定)の結果を支部組合員全員に公示することは、むしろ当然の責務というべく従って、右公示を目して公正な選挙を妨げるものとはいえない。

ところで、(人証略)によれば、原告武石が空港支部の定期大会において、前記認定の、副執行委員長三名の暫定扱いを「規約に違反している」と批難したことが認められ、また、右規約は組織統一にあたり改定されるべきであった旨を指摘したことは、原告らにおいて認めて争わないところである。

(三) 原告らの脱退

(証拠略)を総合すると、つぎのとおりの事実が認められる。

(1) 原告ら三名は、本儀優ら一部組合員と謀り、昭和五一年九月二一日空港支部において新組合結成を企図した行動を起こした。これを察知した被告組合は、団結を守るため、組合員に対し団結を呼びかける掲示をする一方、本部、支部役員を中心に、同月二四日以降、原告らに対し説得活動を続けたが、原告らはこれを受け容れず、遂に、同月二九日、原告ら三名を含む七名の組合員(原告らのほか、本儀優、伊藤信明、鈴木稔、木村敏夫)は、被告組合に脱退届を提出した。

(2) 空港支部では同年一〇月一日及び二日の明番集会において討議したところ、原告らが組合内において、「脱退しても組合員と同じ権利が与えられる。」「年間組合費を計算すると数万円の得になる。」「動員などに行動しなくてもすむ」などといって脱退勧誘を行なっていたことが判明した。しかし被告組合としては、原告らの言い分を聞くとともに団結の重要性を説き、あくまでも原告らの翻意を促す、という方針のもとに辛抱強く説得活動を続けた。他方、原告らを含む七名は、脱退後の同年一〇月一五日新たに組合を結成し、その旨イースタン・エアポートモータース株式会社沖津専務取締役に通告した。このような推移のなかで、原告ら脱退者七名は、同年一〇月二二日、約一〇時間にわたる本部・支部役員との話合いの結果、結局、脱退を撤回し、被告組合に復帰することに合意した。前記話合いのなかで、原告ら七名の脱退の動機、理由は、必らずしも一様ではないもののこれを集約すれば、「イースタン労組への加盟及び今次の役員選挙に関する手続、運営等について承服し難い点があった。」ということが明らかにされ、また、被告組合においても、組合運営に反省すべき点を認め、今後、双方共に反省するということで前記合意が成立したので、その旨の文書を双方確認のうえ作成し、これを組合内に掲示し、ここに前記脱退問題は一応の解決をみた。

(3) ところで、被告組合は、昭和五一年一〇月頃から同年度秋闘の準備にとりかかり、空港支部においては同年一一月二〇日頃までに二日間にわたるスト権投票の結果、圧倒的多数でスト権を確立し、そして、同年一二月四日に秋闘妥結に至ったが、原告谷畑は同年一二月三日夜の職場集会において、被告組合のスト権投票用紙に、文言上妥結権の記載がなかったことを口実として(なお、右スト権投票に際しては、支部役員から慣行上、妥結権も含まれる旨の説明がされていた)、スト権投票には妥結権が含まれていなかったことを理由に秋闘妥結を批難した。そして、原告谷畑は、同原告に同調する原告武石、同竹内茂行とともに、同月四日に予定された秋闘妥結の報告集会(職場集会)への参加を拒否するなどして、被告組合の秋闘妥結決定に反対の立場を公然化させた。そして、原告ら三名は、同年一二月九日、被告組合に再度の脱退届を提出し、その前後にわたる被告組合の本部、支部役員による説得や討論の呼びかけにも一切応じない態度を示した。

以上の事実が認められ、右認定に反する原告武石、同谷畑各本人の供述はたやすく措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(四) 以上のとおり、原告武石、同谷畑の組織統一前後における言動、原告らの脱退により、秋闘期間中の被告組合の組織を攪乱したこと、及び被告組合の運営に対する原告らの執拗な誹謗宣伝や組織分裂工作等、さきに認定した事実のもとでは、被告組合が原告らにつき「組合の統制を著しく乱す行為のあった者」(規約四二条三項)及び「その他組合員として不当な行為をなした者」(同条五項)に該当するものと判断したことは客観的にみても相当であり、従って、被告組合が組織を防衛し、その団結を維持するため、原告らに対して除名をもって臨んだことは、やむを得ない措置であるというべきである。

3  原告らは、本件除名処分は被告組合を脱退し、既に組合員資格を失った原告らに対してなされたものであるから無効であると主張する。

思うに、組合を脱退した者に対してなされた除名処分が有効であるか否かは扠て置き、かかる除名処分の違法性の有無を判断するにあたっては、制裁(除名)事由の有無や脱退するに至った事情及び脱退後除名処分に至る期間の相当性等の諸事情を総合的に斟酌して決すべきものであって、除名処分が組合脱退者に対してなされたとの一事をもって違法性ありということはできない。

これを本件についてみれば、原告らに対し、制裁(除名)事由が存在することは、前記認定・説示のとおりであるところ、原告らが昭和五一年一二月九日再度の脱退に及んだ事情についても、さきに認定したとおりであって、右脱退につき何ら相当な事由を見出すことができない。そこで、つぎに、脱退後、本件除名処分に至る期間の相当性について判断するに、(証拠略)によれば、被告組合は、原告らの脱退の翌日である昭和五一年一二月一〇日緊急執行委員会を開き、原告ら脱退者の取り扱いを検討した結果、組織防衛上の措置として原告らを除名することを大会に提案する旨決定した(なお、被告組合の規約四三条では、除名は大会の決議事項とする旨規定されている)こと、右決定に基づき、各支部において明番集会が実施され、代議員が選出されるとともに、臨時代議員大会招集の趣旨が職場集会で説明されたこと、そして、同年一二月一九日臨時代議員大会が開かれ、代議員一〇〇名中九八名が参加し、経過報告、質疑討論の後、全員一致で原告ら三名の本件除名処分が決定されたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定事実によれば、本件除名処分は、原告らが脱退した日から一〇日後になされているけれども、前記認定のとおりの、大会での除名決議に至る手続過程(執行委員会→代議員大会の招集→職場集会での代議員選出→大会の決議)に鑑みると、この程度の期間を要するのはやむを得ないものというべく、従って、本件除名処分は、原告らの脱退後相当な期間内になされたものということができる。

以上の諸事情を総合勘案すると、本件除名処分が原告らの脱退後になされたからといって、これを違法であるとはいえなく、そして、他に本件除名処分が違法であることについては主張、立証がない。

4  以上のとおり、本件除名処分は適法というべきであり、従って、本件除名処分の違法を前提とする原告らの慰藉料(損害賠償)請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

第三結論

よって、原告らの本件訴中、除名処分の無効確認を求める部分は不適法として却下することとし、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松村雅司)

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